かんなの観劇記録

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ミュージカル「生きる」

公演記録

ミュージカル「生きる」
2023年9月15日(金) 13:00開演 @新国立劇場 中劇場
※アフタートークショーあり(村井良大・上原理生)

鹿賀丈史
村井良大 上原理生 高野菜々(音楽座ミュージカル) 実咲凜音 福井晶一 鶴見辰吾

佐藤誓 重田千穂子 田村良太 
治田敦 内田紳一郎 鎌田誠樹 齋藤桐人 高木裕和 松原剛志 森山大輔
あべこ 彩橋みゆ 飯野めぐみ 五十嵐可絵 河合篤子 隼海惺 原広実 森加織

スウィング:齋藤信吾 大倉杏菜
安立悠佑 高橋勝典

原作:黒澤明 監督作品「生きる」(脚本:黒澤明 橋本忍 小國英雄)
作曲&編曲:ジェイソン・ハウランド
脚本&歌詞:高橋知伽江
演出:宮本亞門

主催:ホリプロ TBS 東宝 WOWOW
企画制作:ホリプロ

感想

今期再再演の当演目、初観劇しました!
昨年末に開催されたコンサート「A Gift For You」で鹿賀さんの「二度目の誕生日」を拝聴してから観劇するのをとても楽しみにしていました。

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作品の素晴らしさは勿論のこと、鹿賀さんを始めとする出演者の皆様の演技に圧倒された2時間でした。飛び抜けたヒーローやヒロインがいるわけではないけれど、それぞれの登場人物がそれぞれなりに必死に生きている姿を目の当たりにするのは胸に迫るものがありますね。

序盤で殆ど機械的に日々を送っているかのように見えた渡辺が、小説家やとよとの交流を経た一幕終盤で「二度目の誕生日」を歌うシーンは、観ている側としても感極まりました。ここに至るまでの鹿賀さんの演技の変遷が本当に素晴らしくて。最初は冴えない男を体現するかのように、他の登場人物たちと比べて何となく存在感が薄く見えるけれど、生まれ変わった後はしゃっきりと背筋が伸びて煌めいているような錯覚を抱きました。また鹿賀さん、コンサートの時は少し足元がおぼつかない印象だったんですが、今日の舞台上では全然そんな風に感じられなくて、役者さんってすごいなぁと改めて実感しました。
結局現実はそう甘くなくて、彼を理解してくれたのはとよと小説家と木村と村人達くらいだし、光男とも仲違いしたまま別れることになってしまった。でもきっと渡辺自身はやれるだけやったという自負があって、最後に光男がその片鱗に触れたからこそ、作品としてある種のハッピーエンドを迎えたのだろうなと思います。

光男は劇中で「馬鹿息子」とどやされていて、結果的に見ればそうなんですが、彼は彼なりに渡辺を案じていたのに上手く表現できず溝を深めてしまった。光男、渡辺だけでなく一枝とのやり取りにも現れていますが、他人の心情を察するのが少し苦手なんでしょうね。こうした不器用さを見ていると、(今回の公演後に開催されたアフタートークショーで村井さん・上原さんが話題に出していらっしゃいましたが)この親にしてこの子あり、と強く感じます。村井さん、こういう人間味の溢れる人物のお芝居が輝いていらっしゃるなあといつも思っています。

時代背景を考えると、とよのように自分の思いを尊重して生きる女性はとても珍しかったと思うのですが、高野さんの演じられていたとよは「性根の明るい素直な女性」という印象で、嫌味なく感じられました。お焼香のシーンは胸に迫るものがありますね……。全ての経緯を話して汚名返上することもできただろうに、あれだけ自由にしていた彼女が最後に渡辺を尊重して、反論を飲み込んで立ち去って行く姿には涙が止まりませんでした。

小説家も、終始彼を気にかけて「人生を楽しむ」ためのサポートをし続けたという意味でとても情の深い人ですよね。終盤、渡辺のために言葉を飲み込んだとよと対照的に、彼が人生をかけて築き上げた公園へ光男を導くあたり、渡辺に対する接し方の違いが表れていて面白いなと思いました。小説家は渡辺役のキャスト次第で台詞が変わるそうなので、市村さん回でどのようになっているのか観るのが楽しみです。

宮本さん演出の作品は十年近く前に拝見したものがあまり反りが合わず、以降は避けがちでしたが、本作はとても良かったなと素直に感じました。原作そのものが持つ力は当然ありますが、その上でさらに舞台作品として綺麗に昇華されていたと思います。モノクロだった世界が次第に色付いていくのは見応えがありました。市役所のシーン、デスクに腰掛けたまま職員達がくるくると移動してフォーメーションを変えていくのは面白かったです。
それから脚本や歌詞も染み入るようで印象的なものが多々あったのですが、高橋さんだったのですね。昨年観劇した「ミュージカル 手紙2022」も本当に素晴らしかったので、またどこかで拝見したいなと思いました。

 

ミュージカル生きる、とても素晴らしい作品だというのは聞いていたのですが、実際に観劇してそのあたたかさに胸を打たれました。もう何度泣いたか分かりません笑
今期もう一度観劇できる予定なので、楽しみにしています!

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